日本人経営者が押さえるべき実務ポイント
最近、「E-2ビザを申請したいが、まだ米国法人を作ったばかりで、会社の実績がない。どうやって申請に耐える状態にすればよいのか」というご相談をいただくことがあります。
結論からいうと、E-2ビザでは、単に会社を設立しただけでは足りず、実際に事業が動き始めていることを示す必要があります。米国務省のForeign Affairs Manual(FAM)は、E-2の対象となる企業について、実体があり、能動的に事業を行う商業的企業であること、そして単なるペーパーカンパニーや投機的投資では足りないことを示しています。さらに、事業は投資家本人と家族が最低限生活できるだけの収入にとどまる「marginal(限界的)」な事業では足りず、将来的にそれ以上の経済的貢献が見込まれる必要があります。FAM上、その将来性は通常、通常業務開始から5年以内に実現可能であることが想定されています。
したがって、E-2申請でいう「会社の実績」とは、必ずしも長年の黒字決算を意味しません。むしろ重要なのは、投資資金が現実に事業へ投入され、会社がすでに営業開始に向けて、または営業開始後に、具体的に動いていることを証拠で示せるかです。米国務省関連資料でも、単なる米国内口座への送金だけでは足りず、実際の購入、署名済み契約、リース契約などの提出が重要だと案内されています。
1. 「実績」とは何を意味するのか
E-2で見られるのは、主に次の3点です。
第一に、会社が本当に存在し、現実に事業をしているかという点です。
第二に、投資金額が実際に事業のためにコミットされ、リスクにさらされているかという点です。
第三に、その事業が将来性のある、非限界的な事業かという点です。
つまり、E-2のための「実績作り」は、売上だけを作ることではありません。
本当に必要なのは、事業の実在性・継続性・成長性を、客観資料で積み上げることです。
2. 会社設立直後でもできる「実績作り」
(1) まずは会社を“設立済み”ではなく“稼働中”にする
会社を設立しただけの状態では弱いです。
少なくとも、次のような状態まで進めたいところです。
- 法人設立完了
- EIN取得
- 米国銀行口座開設
- オフィス、店舗、倉庫、または事業実態に合った拠点の確保
- 必要な営業許可・業種ライセンス取得
- ウェブサイト、会社メール、電話番号の整備
- 会計体制、帳簿、契約管理体制の整備
DS-156E関連資料でも、会社設立資料、契約書、領収書、ライセンス、リースなどが典型的証拠として挙げられています。つまり、会社の箱を作るだけでなく、営業の骨格を整えることが重要です。
(2) 投資資金を「口座残高」ではなく「事業支出」に変える
E-2では、資金が単に米国口座に残っているだけでは弱く、事業のために実際に支出されていることが重要です。FAMは投資が実質的であるかを判断する際、proportionality testを用いるとしていますし、国務省関連のEビザ提出案内でも、単なる送金ではなく、実際の購入や契約締結の証拠が必要だとされています。
したがって、実務上は次のような支出が重要になります。
- オフィス・店舗の保証金と賃料
- 内装工事費
- 設備・什器・機材購入費
- 在庫購入費
- 専門家費用(弁護士、会計士、デザイナー等)
- システム開発費
- 広告宣伝費
- フランチャイズ費用
- 許認可取得費用
重要なのは、その支出が実際の事業に必要であること、そして送金記録・請求書・領収書・キャンセル済み小切手・ワイヤー送金記録などで追えることです。
(3) 顧客との接点を作る
E-2では、「事業を始める準備中」であっても一定の評価余地がありますが、より強いのは、すでに顧客候補や売上の導線が見えていることです。国務省関連資料でも、会社が“real and active”であること、すなわちサービスや商品を提供する事業であることが重視されています。
そのため、次のような資料があると強いです。
- 既存または見込み顧客との契約書
- 発注書、PO
- 業務委託契約
- 取引基本契約
- 請求書
- 入金記録
- 継続的サービス契約
- 取引先とのLOIやMOU
- ECサイトの受注実績
- 商談記録や提案書
まだ売上が少なくても、「市場に出ており、実際に契約や受注が始まっている」ことが見えると、単なる構想段階との差が大きく出ます。
(4) 雇用計画を作り、できれば一部は実行する
E-2では、事業が投資家本人の生活費を稼ぐだけの「marginal enterprise」でないことが大切です。FAMは、現在または将来において、投資家に最低限の生活を与える以上の収入を生む能力を要求しており、その将来予測は通常5年以内に現実化できるものであるべきとしています。
この点で非常に重要なのが、米国での雇用創出の見込みです。
たとえば、
- 何年目に何名雇う予定か
- どの職種を採用するか
- フルタイムかパートタイムか
- 給与水準はどうか
- 実際にすでに採用済みの従業員がいるか
といった点を、事業計画と整合的に示すことが重要です。
すでに従業員がいれば、次の資料が有効です。
- payroll records
- W-2
- 1099
- 給与計算会社のインボイス
- 雇用契約書
- 組織図
実際、各米国大使館・領事館のEビザ提出案内でも、給与記録、W-2、1099、Payroll資料の提出が求められる例があります。
3. E-2申請で強い「会社の実績」資料
実務上、次の資料を揃えていくと、かなり説得力が増します。
基本資料
- Articles of Incorporation / Organization
- Operating Agreement / Bylaws
- EIN
- 株主名簿
- 株式証書
- 銀行口座資料
投資の証拠
- 送金記録
- エスクロー資料
- 購入契約書
- 領収書
- 請求書
- キャンセル済み小切手
- リース契約
- 設備購入記録
事業実体の証拠
- オフィス・店舗の賃貸借契約
- 事業ライセンス
- Seller’s Permit
- 業界許認可
- ウェブサイト
- マーケティング資料
- パンフレット
- 看板、店舗写真、オフィス写真
売上・顧客の証拠
- 契約書
- 注文書
- 請求書
- 入金記録
- POSデータ
- ECサイト売上画面
- 取引先一覧
財務・成長性の証拠
- P/L
- Balance Sheet
- Business Plan
- Cash Flow Projection
- 税務申告書
- 会計士作成資料
DS-156Eの案内資料でも、会社設立資料、契約、領収書、ライセンス、リース、銀行資料、財務諸表、税務申告書等が典型資料として示されています。
4. 実績作りでよくある誤解
誤解1 「売上ゼロなら無理」
必ずしもそうではありません。
FAM上も、新規事業であっても、積極的に操業準備を進め、通常業務開始に向かっている企業であれば評価対象になり得ます。2022年の国務省・AILAリエゾンでも、“active”という言葉は、まだサービスや商品提供を開始していなくても、操業に向けて能動的に動いている新規事業を含み得るという趣旨が示されています。
誤解2 「とりあえず大金を送金すればよい」
これも危険です。
単なる送金より、何に使ったのかが重要です。国務省関連資料は、米国口座への送金だけではなく、実際の購入や契約締結の証拠を出すべきと明確に示しています。
誤解3 「名目だけの会社でも通る」
E-2では、ペーパーカンパニーや遊休投資は足りません。
会社がreal and activeであることが必要です。
5. 実務上の進め方
日本人経営者がE-2申請を見据えて米国会社の実績を作る場合、私は次の順序を意識するのが重要だと考えます。
まず、会社設立と資金移動だけで満足しないことです。
次に、事業に必要な固定費・設備投資・契約を実行することです。
そのうえで、顧客との契約、売上導線、雇用計画を資料化することです。
最後に、事業計画書と実際の支出・契約・会計資料の内容を一致させることです。
E-2は、書類の数だけで決まるわけではありません。
重要なのは、提出資料全体から、
「この会社は本当に動いている」
「この投資は本物で、後戻りしにくい」
「この事業は投資家一人の生活費のためだけではなく、米国で成長する見込みがある」
というストーリーが自然に伝わることです。
6. まとめ
E-2ビザ申請のための米国会社の「実績」とは、長い営業年数や大きな利益だけを意味しません。
本当に求められるのは、投資済みであること、会社が実在して動いていること、そして将来性があることを、客観証拠で示せる状態にすることです。
そのためには、
- 会社設立だけで終わらない
- 資金を実際の事業支出に変える
- 契約・顧客・売上の痕跡を残す
- 雇用計画を示す
- 事業計画と証拠資料を整合させる
という点が非常に重要です。
E-2は、適切に準備すれば、新設会社でも十分に可能性があります。
一方で、準備不足のまま申請すると、「まだ構想段階」「実体不足」と見られて不利になることがあります。E-2申請を考えている場合は、会社設立の段階から、将来のビザ審査で何を証拠として出すかを見据えて準備することをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の案件についての法的助言ではありません。E-2ビザの可否は、国籍、投資額、資金の流れ、事業内容、申請地、提出資料の内容などにより異なります。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
