2026年3月4日から、FY2027 H-1B cap の初期登録期間が始まりました。USCISによれば、今回の登録期間は2026年3月4日正午(ET)から3月19日正午(ET)までです。さらに、今回のシーズンからは、従来の「全登録者にほぼ同率のチャンスがある方式」ではなく、**提示給与に対応する賃金レベルに応じて選抜確率が変わる weighted selection(加重選抜)**が導入されています。
このため、「今年は Wage Level 3 以上でないと厳しい」「Level 1 や Level 2 ではほぼ当たらないのではないか」といった不安の声が増えています。もっとも、結論からいえば、“Level 3以上でなければほぼ無理”という表現はやや強すぎる一方で、Level 1 が大きく不利になり、Level 3・4 がかなり有利になったのは事実です。
まず押さえたい:FY2027から何が変わったのか
DHSの最終規則では、超過登録があった場合、各登録はOEWS wage levelに応じて選抜プールに入る回数が変わる仕組みになりました。具体的には、Level IV は4回、Level III は3回、Level II は2回、Level I は1回、選抜プールに入ります。つまり、従来のように「全員一律1回」ではなくなり、高い wage level に該当する案件ほど当選しやすい制度に変わったということです。
また、この weighted selection は、従来の beneficiary-centric selection(同一 beneficiary の重複登録を抑える仕組み)の上に乗る形で運用されます。したがって、制度の本質は「完全に別物になった」というより、同一 beneficiary を1人として扱う基本構造は残しつつ、賃金レベルによって当選確率に差をつける方式へ移行したと理解するのが正確です。
「Level 3以上でないと厳しい」は本当か
この点について、最終規則はかなり明確です。DHSは、weighted selection の下での推計選抜確率として、**Level I は15.29%、Level II は30.58%、Level III は45.87%、Level IV は61.16%**と示しています。
この数字から分かるのは、次のとおりです。
- Level 1 はかなり不利
- Level 2 は従来と大きく変わらないか、やや有利
- Level 3 は明確に有利
- Level 4 は最も有利
従来のランダム選抜では、DHSの分析上、各レベルとも概ね29.59%前後の均等な確率でした。これに対して新制度では、Level 1 は約半分程度まで低下し、逆に Level 3 と Level 4 は大きく上昇しています。したがって、実務感覚として「Level 3以上の案件がかなり有利」という言い方は妥当です。
しかし同時に、Level 2 にも約30.58%の推計確率が残っているため、“Level 3以上でなければ厳しい”と断定するのは正確ではありません。 Level 2 は依然として選抜可能性が十分あり、Level 1 についても「極めて不利」ではあっても「ゼロ」ではありません。
実務上はどう考えるべきか
企業側・申請者側の実務としては、今回の変更により、“そのポジションがどの wage level に当たるか”が、これまで以上に重要な戦略要素になりました。単にLCAを出せばよいという発想ではなく、SOC code、勤務地、職務内容、必要経験、提示給与の整合性をより慎重に検討する必要があります。weighted selection は、形式的な肩書きではなく、最終的にはその案件で提示される賃金が該当地域・該当職種のどの wage level を満たすかで扱われるからです。
特に注意すべきなのは、低い給与帯の entry-level 案件です。DHSはこの制度変更の目的として、より高技能・高賃金の案件を優先しつつ、低賃金・低技能ポジションへの濫用を抑制する趣旨を明示しています。したがって、Level 1 の案件では、単に「専門職だから」というだけでなく、そのポジションの専門性、必要学位、職務の複雑性、監督の程度、裁量の大きさなどを、従来以上に丁寧に位置づけることが重要になります。
「ランダム抽選は廃止された」という表現は正確か
ここも言葉の使い方に注意が必要です。一般には「ランダム抽選が廃止された」と表現されることがありますが、厳密には、超過登録がある場合の選抜方法が、一律抽選から賃金レベルに応じた weighted selection に変更されたというのが正確です。無作為性が完全に消えたわけではなく、同じ wage level 群の中で選抜が必要であれば、なお抽選的要素は残ると理解した方が実務的です。
100,000ドルの追加費用についても誤解に注意
最近の解説記事では、H-1Bに「10万ドルの追加申請費用」が課されるという点だけが強調されることがあります。しかし、Federal Register 上でも、DHSはこの10万ドル支払い要件はすべての H-1B petition に適用されるわけではないと明記しています。たとえば、米国内にいる外国人についてのamendment、change of status、extension of stayには適用されない類型があると説明されています。
また、この10万ドル要件をめぐっては、米国商工会議所などによる訴訟や、州政府による訴訟が提起され、その後控訴審でも争いが続いていることが報じられています。したがって、この部分は「すべてのH-1B案件に一律適用される固定ルール」として断定するのではなく、適用範囲と訴訟状況を分けて記述するのが安全です。
実務上のまとめ
今回のFY2027 H-1Bでは、Wage Level 3以上が有利という理解は概ね正しいです。しかし、“Level 3以上でなければ難しい”と断言するのは言い過ぎです。制度上、Level 2 でも十分に選抜可能性は残っており、Level 1 も不利ではあるものの完全に排除されるわけではありません。
そのため、法務ブログやクライアント向け説明では、次のように整理するのが実務的です。
「FY2027からは wage level に応じた weighted selection が導入され、Level 3・4 の案件が有利になった。もっとも、Level 2 でも選抜可能性はあり、Level 1 も制度上は排除されていない。ただし、低賃金帯案件は従来より大きく不利になっているため、職務内容・賃金設定・LCA戦略の見直しが重要である。」
企業・申請者が今すぐ確認すべきポイント
- 提示給与が OEWS のどの wage level に該当するか
- SOC code と職務内容に不自然なズレがないか
- 勤務地設定により prevailing wage がどう変わるか
- そのポジションが本当に specialty occupation として説明できるか
- Level 1 の場合、代替案やコンティンジェンシープランが必要か
新制度の下では、単に「登録するかどうか」だけでなく、どのレベルで登録される案件なのかが結果を大きく左右します。したがって、今年の H-1B は、例年以上に事前設計が重要な cap seasonだといえるでしょう。
免責事項
本記事は、2026年3月5日時点で公表されている情報に基づく一般的な情報提供を目的とするものであり、法的助言を構成するものではありません。個別事案については、最新の法令、規則、USCIS運用、および具体的事実関係を踏まえて、弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
